場所などお構いなく、したいときに、したい場所で、自分のしたいことをする馬超に大概は驚き呆れるのだけれども、木を背にしてどっかと芝に座り込み、中食を広げている馬超を目にして趙雲は、この日は嬉しそうな微笑みを浮かべて近づいていった。
久しぶりに穏やかな陽光の恩恵にあずかることができた今日という春の訪れに、趙雲自身もまた、どこか日当たりの良い場所に座して暫しの休息をとりたいと思っていたところだったので、何の迷いもなく馬超に声をかけ、その横に座る許可を得た。
「食事には、まだ早いんじゃないかい?」
趙雲が、馬超の顔を覗き込みながら心底楽しそうにそう言えば、馬超は片眉を上げてただ、腹が減ったんだ、と至極真顔で答える。
それにくつくつと趙雲が笑い出しても、馬超は嫌な顔をすることはなく、趙雲にだけわかる程度に機嫌の良い色を発した。
「あたたかいな」
「ああ。あたたかい」
「このまま、ここで昼寝するか」
「駄目だよ。軍議があるだろう?」
「…面倒だ」
いかにも不満げに口唇を尖らせる馬超の様子が、趙雲には殊の外可愛らしく思えて、趙雲は目を細めてその姿をじっと見つめていた。
するとそれを勘違いしたのか馬超は、己の口に運ぼうとしていたそれを、ずいと趙雲に差し出した。
「お前も喰うか」
「え?」
きょとん、と差し出されたそれを見る。
そして、そんなに物欲しそうに見えたのだろうか、との思惑が生まれる前に、趙雲はそれから目を離すことなく、寧ろ目を離せなくなってしまっていて、抑揚の欠いた声で独り言のように呟いた。
「わたしはいつも、驚くのだけれど」
「うん?」
「馬家というのは、一体どれほどの力を持っているんだい?」
「どういう意味だ?」
馬超が眉を顰めた雰囲気を察して、趙雲は顎を上げて馬超を見る。
尚も馬超が眼差しで問いてくるので、趙雲はやや目を見開いて問い返した。
「この時期に葡萄なんて。どうやって手に入れたんだい?」
自分に勧められた葡萄は、どうやら馬超の嗜好には合わないようで皮は綺麗に剥かれていて、陽の光の中でみずみずしく白く輝いている。
やっと訪れた春だ。
芽吹き、花咲き、実をつけるのはこれからだというのに、馬超という男は何の頓着もなくこんなところで葡萄を趙雲に勧めてくれるのだ。
やはり驚かされることを免れなかった趙雲に馬超は、大したことではないという風にふんと鼻で笑った。
「そんなもの、なんとでもなる。それよりほら」
拒むには難儀なほど口唇の近くに、馬超が葡萄を差し出す。
芳香が趙雲の鼻をくすぐる。
気恥ずかしくはあるものの、趙雲は馬超の好意に甘えることにして薄く口唇を開いた。

「…あ」
舌の上に乗っただけで甘露は口いっぱいに広がり、まさに今旬なるものを収穫したといっても信じてしまうくらいにいきいきとした果実の潤いに趙雲は目を見張った。
「甘い、だろ?」
自分の指先をちろりと舐めながら馬超がそう言えば、趙雲はこくりと頷いた。
馬超がにやりと笑ったことにも気付かずに、素直に甘味を喜んでいる。
それを嚥下したとき、趙雲の果汁に濡れたその口唇に、もっともっと甘い口付けをくれてやろう、と馬超が考えていることなど、知らずに。
the grape
≪re.