ほら、と手渡されたものを見て、趙雲はその意図がわからずに手を出さなかった。
「お前に」
そう言われても、馬超が手にしているその花は、おそらくただ野に咲いていただけの、何の変哲もない花であったにも関わらず、趙雲は受け取れなかった。
「どうしたんだ?」
「え…?あ、いや…これを、わたしに?」
「ああ」
業を煮やした馬超が趙雲の鼻先までそれを持ち上げても、趙雲は困った顔で首を僅かに傾ぐばかりだ。
一方の馬超も、そんな趙雲に向かって反対側に首を傾けて見せ、目で問う。
すると趙雲は眉根を寄せながら、小さく訊いた。
「どうして、わたしに?」
「綺麗だったから」
あっさり簡潔な馬超の返答に、やはり意を把握できずに戸惑い顔の趙雲に向かって、馬超は言葉を継いだ。
「綺麗な者には、綺麗なものを。そうだろう?」
「ええ?」
馬超の物言いについ顔を顰めた趙雲は、自分がしくじったことを刹那に知る。
自分の反応を見た馬超の顔が、子供のように歪んでしまったのを見たからだ。
またからかわれている、趙雲としてはそう思ったのだけれど、どうやら馬超は戯れの気持ちなど毛頭なく、真意でもって趙雲に花を、小さく可憐な花を届けに来てくれたのだと、その表情で趙雲は知った。
「あ、いや…その、綺麗って…」
花に視線を移動させて趙雲が口篭もれば、安堵の色をわかるほどに含ませた馬超の声が趙雲に囁く。
「お前は綺麗だぞ」
「……」
「すごく綺麗だ。おれは知っている」
断言する馬超に、趙雲は自分の顔が火照り始めたのがわかる。
馬超はいつも、臆面もなく趙雲に向かってこんな甘い言葉を紡ぐのだ。
「……ありがとう」
微かな声で礼を言って、趙雲は花をそっと受け取った。
小さな、小さな野の花。
それを受け取った自分は、はかない乙女などではなく、一介の武人であることを頭の片隅で思い出して趙雲は、照れ隠しにうそぶいた。
「君だって、すごく綺麗だと思うのだけれど」
「そうか?」
「うん」
「そうか…。じゃあ」
「え…うわッ…?」
俄に抱き竦められて、趙雲は狼狽した声をあげる。
決して力任せではなく、それでも逃げられないほどの充分な強さで趙雲は馬超の胸に抱き寄せられて、その身体にしっかと腕を回された。
「な、何…?」
何度目かの困惑の声で問う趙雲の耳許へ、馬超は口唇を寄せる。
そして、艶やかな声で囁いた。
綺麗な者には、綺麗な者を、と。
思わず竦んだ趙雲は、その耳朶に軽く口付けられて、花よりも可憐に頬を朱に染めた。

the flower
≪re.