この国に来てからというもの、夏は暑いものだと知らされたはずではあったが、此度の夏の日々はどうにも我慢ならないほど、暑い。立っていても、座っていても、何をしていても暑い。
その不平が思わず口をついて出てきそうになるが、先にほんのちょっぴり怖い思いをした馬超は、隣にいる人物如何により言葉を選ぶ。
だから今は、暑い、と言えない。
「ああ、今日も陽差しが強い」
「…そうだな」
そうは言ってもきっちり着込んだ袍を崩すことなく涼やかな顔でいる趙雲に馬超は、この男が決して不感症ではないことを知っているだけに、なんとも奇異な心持ちになる。
趙雲だって汗をかく。
趙雲だって汗でその肌をしっとりと濡らしたり、その肌に朱を走らせたり、その肌を震わせて例えようもないくらい艶やかに馬超を誘うことがあるのだ。
と、そんなことを考えて、それでは余計に暑くなることに気付いた馬超は、仔犬のようにふるふると頭を振ってその欲望を退けようとした。
「どうした、孟起?」
「え?あ、いや、なんでもない」
「大丈夫か?暑気にでもやられたか?」
「う…」
心配、というより小馬鹿にされているような口調ではあったが、もしこれが他の誰かであったら叩き斬っているであろう馬超も、軽い微笑を浮かべる趙雲であるからこそ、口唇を尖らせて甘えを見せる。
「お前は、暑くないのか」
「え?ああ、暑いよ。今日は特に暑い」
「…そうは見えんがな」
「そうかな。君は…ああ、凄い汗だな」
「…暑いんだ」
ひょいと顔を覗き込んできた趙雲の肌には汗ひとつなくて、それがなんとも不公平な気がして馬超は思わず呟いてしまった。
だが趙雲はくすりと笑うと、斜に構えて馬超の顔を見つめたまま、言った。
「暑いときは、熱いものを食べるといいらしい」
「嫌だ。冷たいものがいい。それより前に、食欲がない」
「汗をかくといいらしいのだけれど。じゃあ身体を動かして、汗をかくのはどうだ」
「嫌だ。こんな日に鍛錬なぞしたら、ぶッ倒れてしまう」
「別に、鍛錬しろとは言っていないのだが」
「動きたくない」
「そうか…。わたしは、したいのだけれど」
「……………え?」
聞き慣れない言葉に、かなりの拍をおいてから馬超が趙雲に訊ね返せば、趙雲は目を細めて馬超を艶冶に射抜いた。
「誘っているのだけれど」
「………」
「でも君がしたくないのなら」
「ちょ、ちょっと待て!待ってくれ!」
常なら決して見ることのない趙雲の様子に、馬超は慌ててその肩を掴んだ。
「だ、大丈夫か?お前こそ、暑さにやられたか?」
「失礼な。わたしだって…欲情することはある」
君に、と小さく付け加えられて、馬超はざわりと肌が総毛立った。
わざと視線を合わせようとしない趙雲の伏せた睫毛に、凄まじい色気を見る。
「でも、君が嫌なら」
「嫌じゃない!」
「…じゃあ」
「!」
袍に手をかけられて、馬超は身体を強張らせた。
するりと帯を解かれ、合わせ目に掌が入ってきて、馬超の胸板が露わになる。
「ああ…凄い、汗だな…」
「し、子龍…?」
既に濡れている馬超の胸に口唇を押し当てて趙雲がうっとりと呟くので、馬超は息を詰めながらその顔を窺う。
すると趙雲は馬超に身体を押し付けて、ちろりと出した舌で口唇を舐めた。
「…暑いと、何故だか君が欲しくて堪らなくなる」
「ッ!! 子龍ッ!」
「あ…ッ」
暑さも理性も吹き飛ばした馬超は、その場に趙雲と共に倒れ込む。
そして着込まれた袍を慣れた手つきではだけ、まだ汗ひとつ浮いていないその肌に掌を這わせ、しっとりと艶やかにさせるべく発奮したのだった。

the bareness
≪re.